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これまで,FEM解析などによって応力拡大係数が求められてきましたが,困難なのはき裂付近で高い解析精度が求められることです。特に,板厚 t に対するき裂深さ a の比 a/t は 0.8 程度以下とされるのが普通でした。これはつぎの2つの理由によるものと考えられます。
最初の経験則については,実際には貫通条件は応力状態により異なるので,より深いき裂の解析が望まれます。 以下の解析はこれまでの解析ではまず不可能だったものです。つぎのアウトラインに沿って述べます。
一般に,き裂を持つ構造物に外力が作用すると,き裂のまわりには応力の特異性――大きな応力集中が生じます。その結果,構造物は材料の降伏応力や引張強さよりずっと小さな応力で破壊することがあり,き裂のまわりの力学的状態を評価することは大変重要です。 材料が線形弾性挙動を示す場合には,き裂のまわりの力学的状態を表すパラメータとして応力拡大係数が取られます。材料力学では応力を力学的パラメータとして取りますが,線形破壊力学 (linear elastic fracture mechanics) では応力拡大係数を出発点として構造物の破壊挙動を調べます。 つぎの図のようにき裂のまわりの局所座標系を取ります。この図のy軸に平行に,上下面に引張り荷重がかかるとき裂はさらに開口するように変位します。これをモード I (開口型) の変形モードと呼びます。モード I のほか,面内せん断型のモード II,面外せん断型のモード III もありますが,ここでは代表例としてモード I だけについて述べます。 この局座標系に関して,応力σij はつぎのように書けます。
ここで,fijn はθに関する既知の関数,KI,c2,c3,・・・は定数です。き裂先端の付近 (すなわち r 〜 0) では左辺の第1項が支配的なので,第2項以降を無視することにします。
すなわち,き裂付近では応力は 1/√r の特異性を持ちます。KI を応力拡大係数 (stress intensity factor) と呼びます。
き裂を持つ長い配管を解析対象とします。き裂は円筒周方向内面の半楕円表面未貫通き裂とします。き裂の対称的な配置を考え,つぎの図の通り,円筒の 1/4 モデルとします。円筒は,板厚 t = 20.0mm,板厚tと内半径Rの比を R/t = 12.7 とします。円筒高さ h = 200mm としますが,これは有限要素モデル作成のために想定するもので,解析結果には影響しません (影響しないように十分大きく取ります)。き裂深さを a,き裂半長を c とします。
き裂形状は矩形領域における半楕円 (の半分) から配管断面へ写像します。応力拡大係数評価点は矩形領域における半楕円上の,中心角を 8 等分割した 9 点を配管き裂前縁上に写像します。 き裂サイズとしてはつぎのようなものを想定します。この表のうち,a/t が 0.8 以下の各パラメータは,ハンドブック (文献の a) の 9.36 Internal and External Surface Cracks in Cylindrical Vessels にあるものです。 メッシュは 4 面体 2 次要素とします。き裂は周方向に長く伸びており,予備解析に基づいてき裂前縁は 400 分割します。この結果,この表の通り,メッシュは非常に大規模になり,自由度数は 1100 万に達します。 き裂の前縁上に節点をもつ要素には,Barsoum の特異要素(参考文献 c, d) を用います。
荷重境界条件として,円筒天頂面で一定に分布する z 方向面荷重 10MPa を加えます。 解析は ADVENTURECluster によって,11 台の Pentium III によるクラスタで行い,それぞれほぼ 8 時間の計算時間を要しました。き裂付近の相当応力分布を以下に示します。
応力拡大係数は変位外挿法参考文献 f によって,き裂表面を含む配管内部では平面ひずみを,配管表面では平面応力を仮定して行ないます。 結果をつぎに示します。横軸はき裂前縁に取った 9 点 にわたる楕円の中心角 2φ/πです。縦軸の応力拡大係数は無次元化した
で表してあります (σは外荷重,Q は第 2 種の完全楕円積分の 2 乗の近似式)。ハンドブックには 2φ/π= 1 の値だけが載っており,これをグラフに重ねます。ここでは本解析の結果とほぼ一致しています。 このようにき裂前縁の全域にわたり応力拡大係数を,しかもき裂深さ 0.95 まで求めたものは今まではありませんでした。これは大規模解析なくしては不可能なものです。
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